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福岡高等裁判所 昭和61年(う)83号 判決

主文

原判決中、被告人三名に関する部分をいずれも破棄する。

被告人Aを懲役八年に、同Bを懲役七年に、被告人Cを懲役六年に各処する。

被告人三名に対し、原審における未決勾留日数中、各三七〇日をそれぞれの刑に算入する。

被告人A及び同Bから、押収してある回転弾倉式拳銃一丁(長崎地方裁判所佐世保支部昭和五九年押第五四号の1)及び自動装填式拳銃一丁(前同押号の3)並びに長崎地方検察庁佐世保支部で保管中の実包六発(同検察庁支部昭和五九年検領第二九五号の2)及び実包一発(前同領号の72)をそれぞれ没収する。

原審における訴訟費用は被告人三名及び原審相被告人D、同Eの連帯負担とし、当審における訴訟費用(被告人Bの国選弁護人に支給した分)は被告人Bの負担とする。

理由

被告人Cにかかる関税法違反の事実についての職権判断

職権により調査するに、原判決は、同判示第四の被告人Cの関税法違反につき、Hらとの共同正犯を認定しているが、本件関税法違反についての被告人Cの罪責を検討するに先立ち本件以外の従前における被告人CらのHらに対する船舶の提供等の行為について見るに、原判決挙示の関係各証拠によると、同判示の(犯行に至る経過、共謀の経緯)の事実に加え、被告人Cらは、Hらが韓国に向けて金などの密輸出をするに際しそれに用いる船を提供して、Hらの指示する海域までこれを運航させて、それに対する報酬を得ていたにとどまるものであり、報酬の額も一回いくらという、主として運航の回数に対応する形で定められていたこと、密輸品はHらが終始所持しこれを船の運航者に託するようなことは全くなかつたこと、船の運航者らは、密輸出品の内容、数量について、Hらから特に告げられておらず、かえつて、Hらは船内でも船の提供者らにこれを具体的に知られることにならないように警戒していたことなどの事実を認めることができ、したがつて、少なくとも本件以前においては、被告人Cら船の提供者、運航者らは、Hらの密輸出を幇助したものに過ぎないと認められ、原判決が被告人Cらの役割について、Hらの密輸出の手伝いをしたものと認定しているのもこの趣旨であるように解される。もつとも、船の提供者の側で現実にその船に乗り込み運航等にあたつたものについては、密輸出行為に必要な運航行為を自ら実行したものと解する余地もないではない。しかし、これらの者が貨物の委託を受けるなど貨物に対する管理、支配の権能を有する場合には、まさに自ら実行行為の一部をしたといえるが、自ら管理、支配する貨物を外国に持ち出すために、運搬手段として他人の船を使用し、これを自己の指示のとおり運航させるに過ぎないと考えられる場合にあつては、船の運航を行う者は、密輸出を実行しようとする者に移動の手段を提供して、密輸出を容易ならしめるにとどまるものと解するのが相当である。そこで進んで本件について見ると、原判決挙示の関係各証拠その他取調済みの関係各証拠を総合しても、被告人CらとHらとの間に従前と異なる協議等がなされた形跡は何ら窺われず、被告人Cを含む被告人らにおいて、Hらに気付かれないように原判示の強盗を計画し、被告人C及び原審相被告人D、同Eにおいて、従前どおり密輸に使用する船を提供するとともにその運航に当たつたものであり、ただ、今回は、被告人C及び原審相被告人Dにおいては、Hらから現金を強取する計画を首尾よく実現させることができるよう、Hらの密輸出が成功することをひそかに欲していたことが認められるに過ぎないから、被告人CらとHらとの間に新たに関税法の無許可輸出の共謀が成立したものということはできず、被告人Cらが金地金の管理、支配を有しないのも従前と同様であり、右のとおり、被告人Cらが、後に予定されている強取行為の一環として、相手からの依頼を奇貨として船を使用させその運航に当たつている点において、強盗行為に向けられた準備行為として、韓国船との海上での取引の成功、不成功につき利害関係を有するとはいえ、密輸出はあくまでもHらの行為であり、いまだ彼等の指示に従つて船の運航にあたつている段階にある以上は、そのような利害関係を有するからといつて、それだけでは、被告人Cが、Hらとは独立して無許可輸出の実行行為をしたことにはならないし、情を知らない者を利用する間接正犯の成立を論ずる余地もない。したがつて、被告人Cらは、この段階では、Hらの行為を幇助したに過ぎないものといわなければならないから、この点において原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、右関税法違反の罪は原判示第一の強盗致傷の罪と併合罪の関係にあつて、一個の刑で処断されているから、原判決中被告人Cに関する部分は、その余の控訴趣意(量刑不当)につき判断するまでもなく、その全部につき破棄を免れない。

〈編注・控訴趣意に対する判断は省略する〉

そうすると、原判決中被告人Cに関する部分は、刑訴法三九七条一項、三八二条により、被告人A及び被告人Bに関する部分は、同法三九七条一項、三八一条により、いずれも破棄を免れないから、原判決中被告人三名に関する部分を破棄することとし、同法四〇〇条但書により、被告人三名につき更に次のとおり判決する。

原判示罪となるべき事実中、第四の被告人Cに関する部分につき、

「第四 被告人Cは、H、K及びLらが共謀のうえ、税関長の許可を受けないで、昭和五九年五月八日午前五時三〇分ころ、長崎県下県郡厳原町所在の豆酘灯台から西方約一七マイルの洋上において、漁船太平洋丸から船名不詳の韓国船に金地金七四・三二キログラム(鑑定価格二億〇五四三万九八八〇円)を積み替えて引渡しをなし、もつて右金地金を我国内から韓国に向けて密輸出した際、Dと共謀のうえ、同日午前零時ころ、佐賀県東松浦郡呼子町所在の呼子港において、Hらを右太平洋丸に乗り込ませ、自らもこれに同乗して、被告人Dにおいて、同船を右呼子港から前記洋上まで運航操船し、もつてHらの前記密輸出の犯行を容易ならしめて、これを幇助し」

と改め、「犯行に至る経過、共謀の経緯」七のうち「密輸出」とあるのを「密輸出幇助」と改める。なお、右第四の事実の証拠は、原判示第四の事実の証拠として挙示された証拠と同一であるから、これを引用する。

原判決の認定した被告人三名の同判示第一の各強盗致傷の所為は、受傷した被害者毎にいずれも刑法二四〇条前段、六〇条に(共謀のうえ、Hら管理の現金奪取に及んだ強盗犯人が、H、Kの両名に傷害を負わせたものとして、各二個の強盗致傷罪が成立する。以下、便宜上、これを判示第一の罪という。)、同じく被告人A及び被告人Bの原判示第三の各所為のうち、拳銃を所持した点はいずれも包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項、刑法六〇条に、実包を所持した点は、いずれも火薬類取締法五九条二号、二一条、刑法六〇条に(以下、便宜上、これらを判示第三の罪という。)、被告人Cの右判示第四の関税法違反幇助の所為は、刑法六二条一項(Dとの共謀の点につき同法六〇条準用)、関税法一一一条一項にそれぞれ該当するところ、被告人A及び被告人Bの判示第三については、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により、重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断し、各所定刑中、被告人三名にかかる判示第一の各罪についてはいずれも有期懲役刑を、被告人A及び被告人Bにかかる判示第三の各罪並びに被告人Cにかかる判示第四の罪についてはいずれも懲役刑を選択し、被告人Bについては、原判示の各累犯前科があるので、その各罪の刑につき、刑法五九条、五六条一項、五七条により、判示第一については同法一四条の制限内で、それぞれ三犯の加重をし、被告人Cの判示第四の罪は従犯であるから、同法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、被告人三名に対する以上の各罪は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、いずれも刑期、犯情の最も重い判示第一のHに対する強盗致傷罪の刑に、同法一四条の制限内でそれぞれ法定の加重をし、なお被告人Cについては犯情を考慮し、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした各刑期の範囲内で、被告人Aを懲役八年に、被告人Bを懲役七年に、被告人Cを懲役六年にそれぞれ処し、刑法二一条を適用して、被告人三名に対し原審における未決勾留日数中、各三七〇日をそれぞれの刑に算入し、主文掲記の拳銃二丁及び実包七発は、判示第一の犯行の用に供したものであるから、刑法一九条一項二号、二項により、被告人A及び被告人Bからこれを没収することとし、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により、全部これを被告人三名及び原審相被告人D及び同Eの連帯負担とし、当審における訴訟費用(被告人Bの国選弁護人に支給した分)は、同法一八一条一項本文により、全部これを被告人Bの負担とすることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官永井登志彦 裁判官小出錞一 裁判官谷 敏行)

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